本日は、両端を固定した場合の梁について、他の梁と比較して、硬さがどうなるかについて説明します。
ちなみにタイトル画像の橋も、広い意味では両端固定梁の一種です。
他のサイトなどで調べた結果、あまり深く突っ込んだ話をしていない場合がほとんどでしたので、実際に即した話を知りたい方向けに解説します。
非線形という少し難しいワードが入っていますが、できるだけわかりやすく説明しますね。
私は非線形を用いた物理を仕事にしており、専門家として知識を読者のみなさまと共有させていただきたいと思います。
両端固定の梁の硬さの結論
結論:片持ちの梁や、両端を単純支持した梁に比べて硬くなる
梁の中央を押せば押すほど硬くなる(非線形性)
これが本記事の結論で、押せば押すほど硬くなる、というのがミソです。
梁の固定の種類
梁の固定の仕方としては、大まかに3種類あります。
- 片持ち梁
- 両端支持梁
- 両端固定梁
それぞれについて説明しますね。
片持ち梁
下図のように、梁の片側だけ固定した梁です。

梁の先端を押すとぐにゃりと変形します。
両端支持梁
図のように、両端を支持しているだけの梁です。

梁を台の上に置いてあるだけのイメージです。
3点曲げ試験とか4点曲げ試験とかの評価でよく使われます。
両端固定梁
図のように、両端をがっちり固定している状態の梁です。

硬さとしては 両端固定梁が一番硬く、片持ち梁が一番軟らかいです。
硬さについては下記で詳細を説明しますね。
硬さの調べ方
理論式


そもそも硬さとは何でしょう?
“ 硬さ”とは、力を加えた時にどれくらい変形するか”
を示します。
変形量が小さかったら、硬いということです。これはイメージつきやすいですよね?
フックの法則で見てみる
このブログでもよく出てくるフックの法則を見てみましょう。

$$F=k×x ⇔ k =\frac{F}{x}$$
この式のバネ定数$k$の部分、これが硬さに相当します。
この バ ネ定数が大きいほど硬い、小さいと軟らかい、と思ってください。
応力とひずみの関係で見てみる
もう少し一般的な話をしましょう。
一般的に応力とひずみには下記のような式が成り立ちます。
$$σ=E×ε$$
フックの法則にそっくりですが、急に出てきたのでびっくりするかもしれません。
見知らぬパラメータがたくさんでてきたので、1つずつ解説しますね。
バネではなく、長さ$L$の立方体の箱に力を与えて、変形させることを考えます。
この時の力を$F$、縮んだ量を$ΔL$とします。

ここで、どれくらい縮んだか、を示すパラメータとして”ひずみ”というものをεで表します。
$$ε =\frac{ΔL}{L}$$

ひずみを使う理由としては、
大きさが違うものを比べるときにΔLでは比べられないから
です。
同じ材質でも、大きな箱を潰した時の変形量と、小さい箱を潰した時の変形量は違いますよね?
次に、応力$σ$についてです。
力を与えた面積は、立方体の箱を考えているので$L × L = L^2$ですね。
厳密には、力Fを加えたときに内部で発生する力を面積で割ったもの、なのですが、
初学者の方は気にしなくても大丈夫です。
最後にEの縦弾性係数(ヤング率)ですが、これが材質の硬さを示します。
大きければ大きいほど硬くなります。
ひずみと応力の関係と、フックの法則を並べてみるとそっくりですね。
$$σ=E×ε$$
$$F=k×x$$
梁の硬さについて深く知る

実験的に硬さに相当する係数から求めます。
変位させた量に対して、どれだけの力が返ってくるか、を測ることによって求めれますね。
一般的には曲げ試験機などを使用します。
それでは、片持ち梁、両端支持梁、両端固定梁の式について、下記にまとめますね。

力と変位の関係を見てみると、$x$の係数部分は両端固定梁が一番大きいですね。


例えば、毛利元就の3本の矢という話がありますよね?

1本の矢だとポキッと折れやすいですけど、3本まとめるとなかなか折れないという話です。
1本でも3本でも、矢の材質は変わらないので、矢のヤング率は変わらないのですが、硬さは変わる、ということはイメージしやすいでしょう。
あるいは、金箔というペラペラの金がありますよね?

ブロックのときは硬いですが、うす~く伸ばすとペラペラで軟らかくなります。
これも厚みが変わると硬さが変わる、ということの例になります。
硬さというのは、 “材質の硬さ(ヤング率)”と”構造上の硬さ(厚みとか、幅とか)”のかけ合わせで決まります。
専門的な用語では”剛性”と言います。
フックの法則のバネ係数も剛性の一種です。
ヤング率と剛性は混同している人が多いので、しっかり区別しておきましょう。
両端固定梁の硬さ-非線形性
さて、先ほどの表からも、3つの梁の中で両端固定梁が一番硬いことが示されました。
しかし、両端固定梁の場合、先ほどの力と変位の関係は、変位がすごーく小さいときにのみ成り立ちます。
両端を固定しているため、梁がたわむと、梁の長さを伸ばさないといけません。
片持ち梁や、両端支持梁だとたわんでも梁の長さを変える必要はありませんね。

両端固定梁を伸ばすためには余計に力が必要です。
たわめばたわむほど、梁を伸ばさなければいけなくなるため、 両端固定梁はたわむほど硬くなります。
この性質のため、両端固定梁には単純なフックの法則が成り立たなくなり、非線形性をもつようになります。

はい、非線形性というのは1次関数ではなくなる、ということです。
下記のリンクでも解説していますので参考にしてくださいね。
変位量$x$と力$F$の関係性をグラフを書くと下記のようになります。

片持ち梁、両端支持梁は$F$が$x$に比例(1次関数)していますが、両端固定梁は$x^3$の項が出てきていますね?
1次関数ではなく3次関数の項がありますので、これは非線形性をもつ、ということを示しています。
なぜ3次の項が出てくるのかについては下記の記事を参考にしてください。
この非線形性によって、両端固定梁にはおもしろい物理現象がいっぱい詰まっています。
おもしろい物理として下記リンクで非線型の振動について解説しています。
まとめ
両端固定梁は両端支持梁や片持ち梁より硬くなります。
しかも押せば押すほど硬くなる非線形性をもちます。
これらのことをイメージがわくように解説しました。
途中、ヤング率や剛性についても解説しました。
これらの硬さを示すパラメータについても、イメージを持っていただけるように解説したつもりです。
剛性は、材質や構造を含むモノの硬さ、ヤング率は材質で決まる硬さ、を示します。
細かい式は初心者のうちはスルーして大丈夫です。
現象をイメージし、理解することが物理では大事です。
イメージさえつかめれば応用が利きますので、イメージする想像力を強化していきましょう。
非線形を学び始めた方の助けになれば幸いです。それではまた^^
参考文献
- 非線形力学(共立物理学講座6):戸田盛和、渡辺慎介、共立出版株式会社
- 機械力学-振動の基礎から制御まで:日高照晃、小田哲、川辺尚志、曽我部雄次、吉田和信、朝倉書店
- 構造と連続体の力学基礎:熊でもわかる変形できる物体の力学:岩熊哲夫、小山茂、web